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東京地方裁判所 平成元年(ワ)12875号 判決

原告

唐沢潤

被告

オールステート自動車・火災保険株式会社

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二六九万〇七六八円及びこれに対する平成元年一〇月七日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求の原因

一  訴外唐沢美智子(以下「訴外美智子」という。)は、昭和六三年四月一九日、被告と自家用自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

二  本件契約には、他車運転危険担保特約(以下「本件特約」という。)として、「第一条(この特約の適用条件)この特約は、保険証券記載の自動車(以下「被保険自動車」といいます。)の用途および車種が、自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、自家用軽四輪乗用車、自家用小型貨物車または自家用軽四輪貨物車であつて、かつ、その所有者および普通保険約款賠償責任条項の記名被保険者(以下「記名被保険者」といいます。)が個人である場合に適用されます。」、「第二条(他の自動車の定義)この特約において、他の自動車とは、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が所有する自動車以外の自動車であつて、その用途および車種が自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、自家用軽四輪乗用車、自家用小型貨物車または自家用軽四輪貨物車であるものをいいます。」、「第三条(この特約による填補責任―賠償責任)当会社は、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が、自ら運転者として運転中(この特約では、駐車または停車中を除きます。)の他の自動車を被保険自動車とみなして、被保険自動車の保険契約の条件に従い、普通保険約款賠償責任条項(被保険自動車について適用される他の特約を含みます。)を適用します。ただし、この場合における被保険者は、記名被保険者、その配偶者および同居の親族にかぎります。」とされている。

三  訴外美智子は、自家用小型乗用車に該当するトヨタクレスタGX六一を所有している。

原告が後記の自動車事故(以下「本件事故」という。)を発生させたときに乗つていた車(以下「事故発生車」という。)は、訴外山田妙子(以下「訴外山田」という。)所有(ただし、登録フアイル上の所有名義人は谷崎健治である。)のトヨタスターレツトであつて、本件特約第二条に該当する。

原告は、訴外美智子の次男であり、本件事故当時、訴外美智子と同居していたから、保険者である被告から損害填補を受けうるはずである。

四  本件事故の発生

原告は、平成元年三月二二日午後八時ころ、事故発生車の所有者である訴外山田から事故発生車を借り受けて、立川市内を経由して日野市方面へ走行していたところ、日野橋付近の交差点に近い路上で、先行車が停止したのに気付かず、ブレーキを踏み遅れ、先行車に衝突し、先行車の運転者訴外今井正に対し、同人の主張によれば休業二か月を要するとみられる傷害を負わせ、かつ、先行車(BMW車)を破損し、同車の所有者モトーレンダイワ株式会社に対し、同会社の主張によれば修繕費一五一万三五四八円、代車レンタル料等六七万七二二〇円の合計二一九万〇七六八円の損害を負わせた。

五  原告は、訴外今井正に対し、右損害賠償として、平成元年五月八日に四〇万円、同年六月一日に一〇万円の合計五〇万円を支払つているところであるから、原告は、被告に対し、二六九万〇七六八円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成元年一〇月七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する認否

一  請求の原因一項については認める。

二  同二項については認める。

三  同三項については、訴外美智子がトヨタクレスタを所有していたこと、トヨタスターレツトが訴外山田の所有であること及び原告主張の使用状況は否認ないし争い、被告に損害賠償義務の存することは争う。

四  同四項については知らない。

五  同五項については争う。

第四抗弁

本件特約の第二条には、「ただし、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が常時使用する自動車を除きます。」というただし書があるところ、原告は、事故発生車を、平成元年三月一五日、訴外山田から購入し、今後とも群馬の大学に行くために使用する意志を有していたものであるから、事故発生車には他車運転危険担保特約は適用されず、被告に対する保険金請求権は発生しない。

第五抗弁に対する認否

本件特約第二条に被告主張のごときただし書のあることは認めるが、原告は、事故発生車を訴外山田から購入した事実はなく、訴外唐沢崇司(以下「訴外崇司」という。)を通じて訴外山田から事故発生車を一時的に借用し、合計九時間程度、友人とドライブ等に夜間のみ使用していたにすぎず、常時使用には当たらない使用状況であつた。

第六証拠

本件記録中訴訟関係目録記載のとおりである。

理由

一  本件契約の他車運転危険担保特約において、本件特約第二条ただし書が、被保険自動車とみなす他の自動車から、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が常時使用する自動車を除くとしていることについては、当事者間に争いのないところ、成立に争いのない甲第六号証、乙第二号証、乙第七号証ないし乙第九号証、乙第一二号証の一ないし五、証人山田妙子の証言により成立の認められる乙第三号証ないし乙第六号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一五号証、証人山田妙子及び同唐沢崇司の各証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、平成元年四月四日から群馬県にある関東学園大学に入学し、寮生活することになつていたことから、同県での交通手段として単車を買おうと考えていたが、同人の兄である訴外崇司から、群馬県は全国一自動車事故の多いところだから車の方が良いのではないかと言われ、その気になり、同訴外人に適当な小型車を捜してもらつていた。

2  訴外崇司は、その所有する車両の車検が近く切れることから、今度はトヨタソアラを購入したいと考え、平成元年二月末ころ、トヨタ東京カローラ株式会社合同センター(東京都東久留米市弥生町一丁目一番三号)で、同年五月二二日車検切れとなる同人所有のトヨタクレスタの下取り見積りをさせるなどしていたが、当時、中古車は、同年四月一日からの消費税の関係もあり、価格が下落傾向なので、なるべく早く下取りに出すほうが良いと勧められていた。

3  訴外山田は、昭和六二年一〇月ころ、小型車である事故発生車を購入し、通勤等に使用していたが、平成元年に入り、大きめの車に乗り換えるために買い替えることを考え、時々デイーラー等を見て廻つていたところ、訴外崇司から原告が小型車を購入しようとしていることを聞き、下取りに出すよりも個人取引の方が若干価格が高めになるため、同訴外人に対し、自己の所有する事故発生車を、とりあえず乗つてみて購入を検討してもらいたい旨勧めたところ、原告とも相談してみるとの事となり、その二、三日後に同訴外人から、乗つてみたい旨の申し出があつた。

4  訴外山田及び訴外崇司は、平成元年三月五日、二人で一緒に前記トヨタ東京カローラ株式会社合同センターを訪れ、訴外山田から、同会社の従業員訴外藤田美智子に対し、トヨタレビンの購入を申し込み、申込金一万円を支払い、購入申込書を作成し、その際、訴外崇司が所有していたトヨタクレスタを六〇万円で下取りに入れているが、下取り価格は同年二月末に訴外崇司が同会社で見積させたものであり、本来、他人名義の車両は下取り出来ないことになつているが、親戚ということにし、所有権抹消のための委任状は訴外崇司から提出する形で行い、契約書類及び下取書類は同年三月一五日を受け渡し予定日とした。

5  原告は、平成元年三月一五日ころから、事故発生車を夜間使用するということで使うようになり、その後は機会があれば運転し、夜間ドライブ等を楽しんでいたが、同月二二日午後九時ころ、東京都立川市錦町五丁目一二番一二号先路上で、友人を乗せて昭島方面から日野橋方面へ向けて走行中、ブレーキペタルとアクセルペタルとを踏み間違い、本件事故を発生させ、同日、立川警察署において司法警察員から取調を受けた際に、「(私がそのような不注意な運転をした理由は)今月の一五日に買つたばかりで、まだ車になれていなかつたことです」と供述している。

6  訴外山田は、前記のようにトヨタ東京カローラ株式会社合同センターからトヨタレビンを購入していたところ、下取りに入れることとしていた前記トヨタクレスタは、平成元年四月五日、右トヨタレビンが納車される際、訴外山田の自宅前から引き取られたが、その時、訴外崇司も同所に来ていた。

以上の事実から、原告には、平成元年四月四日から群馬県で生活するために小型車を購入する予定があり、訴外崇司には、買い替えのため同年五月二二日に車検切れとなるトヨタクレスタを下取りに出す予定があり、訴外山田には、買い替えのため事故発生車を売却する予定があり、訴外山田が同年三月五日にトヨタレビンを購入するに際しては、下取り車として右トヨタクレスタが差し入れられ、契約書類及び下取書類の受け渡し予定日である同年三月一五日から原告が事故発生車を使用していることが認められ、訴外山田は、事故発生車の代わりにトヨタクレスタを下取りに入れているので、事故発生車を下取りに出すことはできず、他に売却する外なく、他方、訴外崇司もトヨタクレスタをトヨタレビンの下取りに提供しているので、トヨタクレスタを自己の購入予定車の下取りに出すことはできないことからすれば、訴外山田と訴外崇司との間で、トヨタクレスタの下取り価格を、事故発生車の売買代金に充当することを予定したものと推認できるうえ、本件事故後に、原告は、警察官に対し、購入した車である旨供述していることが認められ、これに加えて、原告は、事故発生車を夜間使用するという制限があつたものの、原告に許容された使用上の裁量の程度は広く、使用目的は自由であり、使用期間内における使用頻度、回数、時間等の諸事情を総合勘案して判断すれば、原告には事故発生車に対する所有意思が認められ、原告の使用は、本件特約第二条ただし書にいう常時使用する自動車に当たるものとするのが相当であるから、原告の被告に対する請求は理由がない。

二  よつて、原告の請求を棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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